大判例

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東京高等裁判所 昭和45年(う)1065号 判決

被告人 本多邦道

〔抄 録〕

所論は、原判決は被告人が株式会社菊田洋紙店名義の商品蔵出指図書合計三二通及び同受取書合計八通を偽造、行使した旨の事実を認定しているが、被告人は右会社代表取締役菊田泰弘から商品蔵出指図書及び受取書の作成権限を包括的に委託されていたもので、本件商品蔵出指図書及び受取書も右権限に基き作成したものであるから、これらを偽造したものではなく、従つて、これらを交付した行為も偽造文書行使罪を構成しない、原判決が被告人の所為を私文書偽造、同行使罪に問うたのは事実を誤認したものである、というのである。

よつて考察するに、法人(又はその代表者)名義の文書を作成する法律上の一般的権限は取締役又は支配人に属し、法人の使用人はかかる権限を有するものではなく、これを有する者からその権限を委任された範囲内においてのみその権限を有するものであるところ、先ず、本件商品蔵出指図書偽造、同行使の罪の成否について検討すると、原判決挙示の関係証拠によれば、被告人は原判示株式会社菊田洋紙店の使用人であり、本件当時商品受渡係長として商品の仕入販売の業務を担当していたこと、同会社においては仕入先中井株式会社から洋紙を購入するに際しては中井株式会社の承諾により、同会社を代行して中井株式会社代行店株式会社菊田洋紙店名義をもつて中井株式会社と取引関係のある倉庫業者宛の商品蔵出指図書を発行し、これを右倉庫業者に交付しこれと引換に商品を受領する取扱になつており、予め中井株式会社から同会社名の印刷してある商品蔵出指図書用紙を預り、菊田洋紙店代表取締役菊田泰弘又は取締役相川相において、これに中井株式会社に届出済の株式会社菊田洋紙店の会社印(菊田泰弘の司法警察員に対する昭和四四年五月一五日付供述調書末尾添付の「荷物領収、株式会社菊田洋紙店」という角印)を押捺した上、緊急の必要に備えて仕入商品の種類、数量等の事項は空白のまま右用紙一〇枚位を被告人に一括交付しておき、被告人において随時これに所要の仕入商品の種類、数量等を記入し取扱責任者たる被告人の認印(前同様届出済のもの)を押捺して商品蔵出指図書の作成を完了し、これを使用していたこと、右会社印は代表取締役菊田泰弘又は取締役相川相の保管にかかり、被告人はこれを使用することを許されていなかつたことを認めることができる。されば、本件商品蔵出指図書作成の権限は右菊田又は相川に帰属し、被告人はただその所管業務に関し右商品蔵出指図書の作成を補助する権限を与えられたに止まり、その作成権限を委任されたものではなく、原判示各商品蔵出指図書作成の所為はその作成権限を偽つたものに外ならないから、私文書偽造罪を構成するものといわなければならない。従つてまた、原判示商品蔵出指図書交付の所為も偽造私文書行使罪を構成することを免れない。しかして、当審における事実取調の結果に徴しても右認定を左右するを得ない。この点の論旨は理由がない。

次に、受取書偽造、同行使の罪の成否について考察すると、原判決挙示の関係証拠並びに当審証人相川相及び被告人の当審公判廷における各供述によれば、原判示受取書については、被告人は右菊田洋紙店の使用人、受渡係長としてその担当する洋紙の仕入業務に関し受取書発行の方法により仕入をする場合に必要な菊田洋紙店の店名入り受取書用紙、それに押捺すべき右会社名義のゴム印及び取扱責任者として取引先に届出済の「菊田」なる認印各一個を自ら保管し、随時仕入の必要に応じて被告人自らの裁量により右受取書用紙に商品の種類、数量等所要事項を記入した上、右ゴム印及び認印を押捺して右会社名義の受取書を作成し、これを用いて右仕入業務を行なうことを許されていたものであることを看取することができるから、被告人は右受取書についてはその作成の権限を有していたものと認められる。してみると、被告人の原判示各受取書作成の所為は、菊田洋紙店の名を藉り洋紙を詐取する目的で内容虚偽の文書を作成したものではあるが、文書の作成権限を有する者が、その権限を濫用したものに外ならないから、私文書偽造罪を構成せず、従って原判示各受取書交付の行為も偽造私文書行使罪を構成しないものといわなければならない。されば、右各受取書の偽造、同行使の罪の成立を認めた原判決は事実を誤認したものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は破棄を免れず、この点の論旨は理由がある。

(遠藤 青柳 酒井)

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